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2007年03月01日
ボトムアップ的な電子工作、という考え方
電子工作の面白みについて、ちょっと考えてみる。
よくありがちなのは、キットを作るタイプのもので、マニュアルと部品があって、手順どおりに作っておしまい。だいたい、作ったものは、使わないし遊ばない。
次にありがちなのは、まずはこんなマイコンがあって、こんな機能があるので使ってみましょう、的な解説。くっつけるのはスイッチだったりLEDだったり。だいたい、できあがるものは、つまらない。勉強にはなるけど。
これらを、仮にトップダウン的な電子工作、と呼ぶことにする。
これらをふまえたうえで、実際に必要とされる手順は何か、と考える。
だいたいは、まず作りたいものがあって、それをどうやって作るか、に頭をひねるわけだ。
例えばPlayStationのコントローラがある。こいつをマイコンでつついて、何かを動かしてみたい、と考えるとする。つまり素材があって、その料理法を考える、わけだ。
手持ちの料理法(自分が使い慣れたマイコン・デバイスを使う)でもいいし、新しい料理法(未知のマイコン・デバイスを使う)にチャレンジするのもいい。
当然、その料理のためには、いろいろと調べることが多い。コントローラのプロトコルとか、マイコンのプログラミングとか、さらには電源回路とか。
これを、仮にボトムアップ的な電子工作、と呼ぶことにする。
いままでの電子工作には、この、ボトムアップ的要素が、少ないんじゃないだろうか。
もちろん、このボトムアップ的電子工作を、趣味でやるのは、いい。
でも、講習会とか演習とかでやるのは、たしかに指導者には多大な労力がかかりそうだ。
しかし、たとえばこういう実施方法はどうだろう。
まず、素材を、ジャンクの山や雑多な部品箱から、自分で面白そうなものを探す。例えばヘンなスイッチでもいいし、ヘンなランプでもいいし、マトリクスLEDでもいいし、液晶モジュールでもいいし、なんかのセンサでもいいし、PlayStationコントローラでもいいし、モータでもいい。
次に、そいつをどう料理するか、を、自分で考える。まわりとdiscussionするのもいい。例えばこのスイッチで、ここがこう光るようにしよう、とか。
そして、ある程度のコアな回路は、みんなで共通化しておく。例えば使うマイコンとコンパイラをそろえる、とか、電源は同じACアダプタ、とか。これに関するlectureや演習をやる。
続いて、インタフェースの回路を考える。これはいろいろ調べたり、アドバイスを受けたりしながら。例えばセンサの出力の取り込み方法とか、コンデンサアンプの増幅回路とか、モータの駆動回路とか。
最後に、全体を設計し、回路もプログラムもつくり、デバッグしながら、完成。
時間はかかりそうだけど、ある程度じっくりやるのが許されるのであれば、こういうボトムアップ的な電子工作は、なかなか面白いし、ためになるんじゃないだろうか。
投稿者 akita : 2007年03月01日 20:32
コメント
自分は子供のころにボトムアップ方式で学んだので、現在の
ような仕事をしているのだろうな、と思います。
ソフトだハードだという前に、こういうことをやってみる
ことが、面白さを理解する契機になると思います。
ただ、近年、学生さんは教えられ慣れていて、自分で調べる
のが極端に下手なので(熱中度が低いのかも)、少人数でな
いと難しいかも。学校の先生が、教えすぎるのはよくない
ですね。
投稿者 kitagawa : 2007年03月01日 21:32
kitagawaさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
そうなんですよね。少人数でいきたいところです。
投稿者 akita : 2007年03月01日 21:55
そういう「トップダウン」「ボトムアップ」の分類もあったのですね.僕は「トップダウン=アプリケーションありき」,「ボトムアップ=コアテクノロジーありき」で分類してました.
こんな面白いテクノロジー(マイコン,インタフェース,伝送方式,OS…)があるから,こういうものを作ってみようと考えるばかりで,アプリケーションから考えられなくて困ってます.困った若者ってことでしょうか!?(^^;)
投稿者 okazaki : 2007年03月02日 01:25
最近、転がっているモノ自体が高度化していて、それをつっつくのが大変になってきている気もします。
ハードウェア2.0(もはや2.0は死語?)という視点で、転がっているモノがAPI(仕様)を公開するような新しいモノづくりの形ができるといいなぁと思います。
投稿者 macyu : 2007年03月02日 02:27
電子じゃないかもしれませんが、こういうの2年前にやってもらいました。100均雑貨でインターフェースをつくるワークショップ。どうでしょうかね。
http://www.kazushi.info/modules/works/art_computing05/index.html
投稿者 mukaiyama : 2007年03月02日 08:11
okazakiさん、macyuさん、mukaiyamaさん、コメントありがとうございます。
okazakiさん:
私自身は、料理人、という職業にあこがれています。
料理人は、面白い素材をみつけると、おいしそうな料理にしてくれます。それを見た人が、ああ、こういう料理法もあるのか、と刺激を受けて、さらに新しい料理法を考えるかもしれません。
例えばエリンギというキノコが世の中に現れたとき、どうやって食べればいいのかがわからず、買いませんでした。しかし何かのテレビ番組で、誰かが、エリンギを使った料理(といってもたぶんホイル蒸し程度)を作っていて、ああ、なるほど、こうやって食べればいいのか、とわかって、いろいろな料理を試みるようになりました(といっても実際に料理をするのは、かみさんですけど)。
例えばPICというマイコンが世の中に現れたとき、どうやって使ったらいいのか、何に使えるか見当もつきませんでした。ところが秋月で書き込み器がキット化され、PICをつかったステッピングモータ制御回路や時計などのいろいろなキットが発売されるのを見ていくうちに、ああ、こういう使い方もあるのか、とわかって、いろいろな料理法を試みるようになりました。(PIC=「コンピュータ」という固定観念からは思いもつかない使い方でした)
面白いテクノロジに出会ったとき、それをうまく使った料理をつくる料理人は、とても大切な役割だと思うのです。
macyuさん:
たしかにモノが高度化していて、いじりにくいのは事実ですね。↑の例のPlayStationのコントローラやTrevaは、比較的珍しいカテゴリのものです。
これらみたいに、プロトコルをハックする、という作業自体も、それはそれで面白そうなのですが、程度問題でしょうね。
ハードウエア2.0、ということは、作った人やハックした人が、APIを公開していく、という文化(とあえて呼ぼう)、ということでしょうかね。
mukaiyamaさん:
ええ、こういうノリを考えていました。ただ、以前から、こういうのとはちょっと違うところは、「モノ作りに、ある程度(場合によってはかなりの)予備知識が必要」という点だと思うのです。例えば世界聴診器につける素材とその加工は、ノリ付けとか、穴あけのように、それほど深い予備知識は必要ないですよね。つまり、こういうものを作りたい、というモチベーション・アイディアを、比較的具現化しやすいと思うのです。
それに対してボトムアップ的な電子工作の場合は、半田付けという作業だけならいいとしても、回路設計(ないしはプロトコルなどのシステム設計)をしようと思ったとたん、敷居が高くなると思うのです。つまりモータを駆動するための回路構成であるHブリッジというのがあるのですが、そのスジでは常識でも、先ほどのノリ付けや穴あけとは、別次元の予備知識だと思うのです。こういう予備知識が無数にあるので、そういうものを多く知っている職人(仙人?)のような人でないと、ボトムアップ的な電子工作は、不可能だったと思うのです。アウトドアの知識もその類のように思います。
しかし、高いモチベーションさえあれば、調べたり勉強したりできます。Google先生がいる現代は、以前とは比べ物にならないくらい、そういう調べものがしやすくなりました。とはいっても、先ほどのノリ付けや穴あけに比べたら、格段に時間はかかるでしょうし、職人(仙人)のアドバイスも非常に有効でしょう。
結局は、モチベーション、ということなんでしょうね。
投稿者 akita : 2007年03月02日 09:02
「ニーズ型」開発と「シーズ型」開発の後者に関して,面白そうなアイデアだとお見受けしました.企業では前者を事業部が担当して,後者は研究所が担当するという認識があります.
個人的には大学の方々には後者を大切にしていただきたいなと思ってます.でも独立行政化法人にあると,企業からの融資が必要な場合があるので難しいかもしれませんが...
かくいう私も学生時代はPICのアセンブラで苦労しましたが,実際に自分で作成したプロトコルで物が動いたときの感動は今でも忘れられません.
今の学生さんは,その感動を得る機会が少なくなったのかな?
投稿者 にゃか : 2007年03月02日 10:56
にゃかさん、コメントありがとうございます。
ニーズとシーズ、企業と大学、という話は、つきないので、ここではちょっと離して考えてみます。
シーズ型は、たしかに大学の役割ですが、学生さんのやること、とのかかわりは、微妙なところのように思います。
知識は、いずれ(あるいは、すぐに)陳腐化しますから、学んだ知識自体は、(ベース、という意味はあるにしても)それほど意味はないと思うのです。
むしろ、学ぼうという姿勢、およびその手段(やり方)こそ、大学で学ぶものだと思うのです。
トップダウン的な電子工作では、この前者のことは学べるにしても、後者のものが学べないと思うのですよね。
最近は、自主的に課題を設定して半年程度取り組むタイプの演習もあるのですが、他のテーマを見ていると、あまり「自主的」なものは見られないように思います。むしろ、ちょっとadvancedな学生実験、にしてしまっている先生が多いように思えるのは残念です。確かに、本気で「自主的な課題設定」をさせたら、面倒を見る教員(とTA)は、大変に決まっていますが、それは大切なことだと思うのですよね。
投稿者 akita : 2007年03月02日 12:01
はじめまして。
僕も同じボトムアップ的で育ち、最近はトップダウン的な人も環境も少ないなぁと感じています。
自分なりの理屈は、DNA的にそうなのかと。
自分がボトムアップ的に育ったのは環境もあるかもしれませんが、自発的にボトムアップ的に進んでいました。そして最近の新入社員にボトムアップ的な環境を作っても感心がなさそうなのです。
このような経験から、ボトムアップ的な人になるかどうかは産まれた時から決まっているのではないかと考えました。
投稿者 ルパン : 2007年03月04日 03:54
(先ほどは失敗)はじめまして。
僕も同じボトムアップ的で育ち、最近はトップダウン的な人も環境も少ないなぁと感じています。
自分なりの理屈は、DNA的にそうなのかと。
自分がボトムアップ的に育ったのは環境もあるかもしれませんが、自発的にボトムアップ的に進んでいました。そして最近の新入社員にボトムアップ的な環境を作っても感心がなさそうなのです。
このような経験から、ボトムアップ的な人になるかどうかは産まれた時から決まっているのではないかと考えました。
投稿者 ルパン : 2007年03月04日 03:54
ルパンさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
ふむふむ。なるほど。とても興味深いお話ですね。
私自身も、ルパンさんがおっしゃるようなことを、うすうすと感じてはいるのですが、可能性を信じて、ちょっと試みてみたいと考えているところです。
投稿者 akita : 2007年03月04日 21:08
何もない所から何かを作るというのは、とても難しいことで、「想像力を働かせてモノを作る」ということは、何かがあった上で、「選ぶ」ことから始まることが多いと思います。
例えば、akita先生のおっしゃる料理も然り、また、女の子っぽく言うと、ビーズで小物を作るとき、いろんな色、形、大きさのビーズがあればあるほど、ネイルにしてもマニキュアの色が多ければ多いほど、想像力が膨らみ、ワクワクします。選びながら想像、想像しながら選ぶ感じです。
ボトムで選べる範囲が多ければ多いほど楽しいですね。
先日も、秋葉原のパーツ屋でスイッチばかり見ていたのですが、いろんなスイッチがあって面白かったです。何に使えるんだコレ?みたいなものの宝庫でした。
もうちょっと分かりやすく可愛らしくして欲しいとも思いましたが・・・と、まぁそれは私の修行不足なのだと思います。
ただ、電子工作は、ビーズやネイルよりも、おっしゃる通り、断然に知識が必要となりますし、敷居も高く感じます。しかし、それを自分で考え周りと相談し、ボトムアップ的に成し遂げたときの達成感は非常に高いと思います。
「何のために作ってるの?」と聞かれたときに、「やれって言われたから、言われた通りに作ってる。先生がそう言ったから…」じゃ虚しいと私は思います。
自分が、クリエイティブなことしてるなーと感じとれる部分があれば、何をしてるにしても楽しいですよね。
投稿者 yaomari : 2007年03月08日 18:36
yaomariさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
スイッチは、電気回路としては単なるON/OFFでも、物理的な形態が多種多様なので、とっかかりにはいいかもしれませんね。
ふむ。「選ぶ」ことから始まる、という視点は、たしかにそうですね。選択肢がないと、話が始まらない。
素材があって、それの料理法に困ったら、とりあえずアウトドアの達人がある程度は料理してくれる、その後は自分で味付けをする、という環境は、実はけっこういいのかしら。
例えばアナログ電圧は0V〜5Vの範囲で扱う、というルールを決めておくことにする。で、よくわからない光センサを拾ってくる。で、そのセンサの出力を0V〜5Vの範囲に増幅するアンプの回路は、作ってもらう(ただし事後でいいのでその回路の理屈は勉強する)。そのあとは、それをマイコンにつないで、あとは中身の仕込み。
こうすると、「達成感」は、そこそこ味わえるんじゃないですかね。
投稿者 akita : 2007年03月09日 21:43